医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
医者と船乗りは労働基準法から外れてるから!私が研修医になった時、最初に指導医から言われた言葉だ。“レジデント(Resident)”というのは住み込みというという意味だから、帰れないのは当たり前だよともよく言われた。確かに3日4日病院に泊まり込みで帰宅できず担当患者さんの治療をするのは日常茶飯事で、“医者になって増えたのは予備の下着の数だけだな~”と武勇伝の様に語る先輩もいた。我々はそれが当たり前で、医師の生活とはそういうものだと思っていたが、最近“医師の働き方改革”なる大問題が政府から我々に突き付けられている。いったい何を改革する必要があるのか。
何も知らない当局の人々からすると、日本の医師は働きすぎらしい。しかし、ヨーロッパやインド、韓国で行われた医師によるストライキは日本では起こっていない。それは日本の医師が今の働き方に誇りを持っているからだ。では、誰が“働きすぎ”にクレームを言い、それを改革することを望んでいるのだろうか。簡単にいうと、医師の時間外・休日労働時間の上限を年960時間(A水準)に制限するらしい。単純計算すると1日2.5時間となり、最長でも19時30分には診療を終えないといけない。糖尿病内科の医師は21時に測定される入院患者さんの眠前の血糖値を見ないで帰らなくてはいけないということだ。ここから平日当直や土日当直、外勤当直などを差し引くと、18時(夕食前)の血糖値も見ることが出来ずに帰宅する羽目になる。そうすると血糖管理の次の一手が遅れ、入院期間が長くなりDPC(Diagnosis Procedure Combination)で査定され、病院が破産する。我々は労働時間と労働場所を管理されるためにスマホのようなものを持たされ(ビーコンシステム)、位置確認をされている。まるで犯人と同じだ。そして外来や病棟にいるときは勤務とみなされるが、医局や食堂、売店にいるときは病院内に居るにも関わらず勤務時間とはみなされず“自己研鑽”という悪魔の言葉でひとくくりにされる。つまり、私が教授室で論文を書いている時間も研修医や学生の講義のためにスライドを作成している時間も“自己研鑽”として勝手に行っている行為になるのだ。もっと酷いのは、若い医師たちは当直中でも当直室にいる時間は勤務時間にカウントされない。医師を馬鹿にしているとしか思えない改革だ。
若い医師が過労死する悲惨な事件が起きている。同業者として悲しい限りだが、世間やマスコミの矛先が間違っている。病院ではなく、くだらない制度を作った国を、政府を訴えるべきだ。病院は愚作の中で生き残る方法を必死に模索している。かつて私が千葉県銚子市でインスリン療法の講演をした際、聴講に来られた医師の中に耳鼻科医、産婦人科医、小児科医が居られた。銚子市立病院が新臨床研修医制度のせいで医師不足になり当時閉院となったため、周辺に溢れた糖尿病患者さんのインスリンの調整を非専門の先生方がしなくてはならいと言っていた。2024年2月号の日本医師会雑誌の座談会の中で、ある衆議院議員先生が非常に面白いコメントを沢山してくださっている。この議員先生は患者として徹夜明けの医師に診てもらうのは少し心配だそうだ(1218頁)。議会中居眠りしている議員先生が決めたことに振り回されている我々の身にもなって欲しい。また、地方の医師不足や医師の高齢化について横手幸太郎先生が尋ねると、“こうした問題はアンケート等ではなかなか把握しにくいです。目に見えるような形になれば、われわれも取り上げて政府に働き掛けるなり、何らかの活動をしたいと思うのですが、現状はどうしても見えにくい部分があります(1224頁)”とのんきな構えだ。その前に多くの命が失われ、病院が潰れ、行き場のない患者が溢れ出す。そもそも、現状が見えてないなら改革などするな!政治家が集めた裏金を薄給で寝ないで頑張っている若い医師たちにキックバックすることから始めるべきだ。
新医師臨床研修制度によって地方から若い医師がいなくなり、新専門医制度によって外科や内科といったいわゆるメジャー診療科を目指す医師が激減した。医師の働き方改革は医師の尊厳を破壊するであろう。医は仁術なりという。順天堂大学の学是でもある“仁”という言葉を叩き潰し、“医はビジネスなり”という考え方にシフトさせる政策が2024年4月に本格化される。このままでは日本の医療レベルが確実に下がる。もしかしたら政府は“医療レベルの低下→国民の寿命の短縮→高齢者の減少→年金の削減”という方程式を描いているのかもしれない。まだまだ言いたいことは山ほどあるが、当局に狙われたくないので終わりにする。
日本の医療は何処へ向かっているのか?正しい方向に向かって欲しいと願っている医療者は、今こそ声を上げて欲しい。
<残心>しゅんしゅんクリニックP
よしもとのお笑いタレントしゅんしゅんクリニックPこと宮本駿先生と一緒に講演会をしました。様々な他科の先生方や経済学者の先生など他の学問の専門家と共演したことはありましたが、お笑いタレントさんとは初めてのコラボでした。軽く予習をして講演会当日に臨みましたが、プロの芸人さんの迫力に感動しました。滋賀医科大学に国内留学していたころ、森野勝太郎先生に連れられて吉本新喜劇を観に行った時も思いましたが、リアルの芸はテレビやパソコン画面で見るのと熱量が段違いです。また、お笑いと医療の二刀流に取り組み、両者の交差点を模索している点に感銘を受けました。ヒトの感情を動かす中で、笑わすことが一番難しいと言われています。人と人が共有して仲良くなれる感情が“笑い”ではないでしょうか。糖尿病のある人の心を動かし、行動変容を促すことが一つの醍醐味である糖尿病“心”療に携わる我々にとって、お笑いタレントさんの手法は学ぶものが大いにあると思います。次回お会いした時にしゅんP師匠にご伝授賜りたいと思います。講演会後の席で“活舌がいいですね”とプロのお笑いタレントさんから褒めて頂きました。バリ嬉しかったです(笑)
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
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