糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第36話】
血糖値と血糖変動のアキュラシー

日本糖尿病学会が、iCGM(intermittently viewed continuous glucose monitoring)という用語を廃止し、isCGM(intermittently scanned continuous glucose monitoring)という用語に統一することを発表したことが話題になっている(「iCGM」「isCGM」の取り扱いについて:「糖尿病学用語集」編集委員会|一般社団法人日本糖尿病学会 (jds.or.jp))。本件を取り扱っているのが「糖尿病用語集」編集員会であるが、糖尿病初心者の若い先生方はこの「糖尿病用語集」を一度しっかりと通読して頂きたい。論文の査読や専門医のサマリーをチェックしていると、非専門医的な誤字が非常に多く見受けられる。基本的な所ではインシュリンではなくインスリン、Ⅰ型・Ⅱ型糖尿病ではなく1型・2型糖尿病であり、最近の用語ではDPP4阻害薬、GLP1受容体作動薬ではなくDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬である。言葉は正確に表現することが重要である。ところで、用語はさておき、我々が当たり前のように臨床で使用している“isCGM”は、マルっと信じて治療方針まで変えていいものであろうか。

そもそも“血糖値”とは、血液内に溶け込んでいるブドウ糖濃度の事を指しているが、我々が気安く血糖と呼ぶのがおこがましいほど精密に管理するべきもので、些細な取り扱いのミスで、誤差を生じてしまう。ブドウ糖は我々の身体を支えるほぼほぼ全ての組織でエネルギー源となるため、採血部位によって動脈>毛細血管>静脈の順に低くなる。空腹時では約10mg/dL静脈血は動脈血より低値で、食後にはその差がさらに拡大する。また、採血時に赤血球などの解糖系で分解された分の誤差が生じないように、採血管にはフッ化ナトリウムを加える必要がある。真の血糖値を測定するのはかなりハードルが高いと言える。通常患者さん自身や病棟で看護師が血糖測定をする際には自己血糖測定(SMBG)器を用いて、毛細血管から血糖値を測定するが、上記のような理由と間質液の混入による違いを含め、±15%誤差まで製品化の段階で許されている。従って、SMBGで200mg/dLと表示された血糖値は、170~230mg/dLの可能性があるということだ。意外に思われる方も数多くおられるかもしれないが、さらに驚くべきことは、isCGMによって測定された血糖値はもっと誤差が大きい可能性が高い。そもそも、isCGMは間質液の糖濃度を非公開の独自の換算式で血糖値に置き換えているため、血糖値を測定しておらず、血糖みたいな値とか間接血糖値とでも呼ぶべきものである。岡山県の藤原みち子先生から頂いた図を見ると、糖尿病患者さんにおいて間質液の糖濃度が血糖値とはとても呼べないものであることがよく分かる。

@第36話 血糖値と血糖変動のアキュラシー 野見山崇

血管から毛細血管へ流れた糖は間質液に入り筋肉や脂肪細胞といった末梢組織にインスリン依存性に取り込まれる。インスリン抵抗性のある糖尿病患者さんは、間質液の糖が細胞内に取り込まれる速度が違い、同じ計算式で血糖値をはじき出していたら、SMBG以上に大きな誤差を生じるのではないか。最近入院した頻回に低血糖を起こす1型糖尿病患者さんで、SMBGとisCGMを比較したところ、血糖値と間接血糖値が30~40mgdL違うことはざらにあることが分かった。isCGMは血糖変動が見えるということで、スポットライトを浴びている。その背景には糖キング第06話で取り上げた食後高血糖と血管障害進展の密接な関係がある。血糖変動的なものが見られてもアキュラシーに問題があっては元も子もない。さらに、診療報酬にも厳格な掟があるのをご存知であろうか。FMGは強化インスリン療法か、その後の混合製剤2回射ちの患者さんにしか保険上使用できないことになっている。研究レベルでは最近の糖尿病治療薬を用いて血糖変動が改善した!と鬼の首を取ったかのように発表しても良いのかもしれないが、国民皆保険制度という素晴らしい精度で守られたわが国で行う診療上は不適切な使用法ではなかろうか。また、測定せずに余ったチップをインターネットショップで売るような真似は断固として許せない。医の倫理に反する行為だ。

診療報酬の違い@第36話 血糖値と血糖変動のアキュラシー 野見山崇

散々isCGMを悪く言ってしまったが、私が全く信じておらずisCGMを使用していないわけではない。CGMを用いた論文も書いている(Diabetol Int. 11(3):274-282, 2020)。間接血糖値は絶対値としては信用できないが、トレンドは正と思っている。では、今後どのように考え、捉え、臨床に応用していけばよいのであろうか。CGMを用いて数多くの論文を執筆している国際医療福祉大学三田病院坂本昌也先生は、血糖変動という病態を様々なパラメーターを組み合わせながら、短期・中期・長期と分けて捉える考え方を提唱している(J Clin Med Res. 10(10): 737-742, 2018)。一つのデバイスの一つの指標のみを取って“血糖変動”という評価をするのではなく、時間軸の中で患者さんの血糖の推移を考える必要があるのかもしれない。また、SMBGが出来ない夜間の低血糖を捉えるには、isCGMは有用なツールである。血糖推移のトレンドは間違っていないと思われるため、早朝空腹時に採血し、検査室で測定した正確な値とisCGMのデータを組み合わせ、夜間低血糖の有無は十分判断できると思われる。一つのツールにこだわらず、全体の中でのデータが示す役割を認識するべきであろう。木を見て森を見ずにならないように。ところで、isCGMは最近の最新の技術のように思われているかもしれないが、実は1980年代から河盛隆造先生のグループが同じ試みをされていた論文が残っている(糖尿病 32(1)21-25,1989)。ChicagoBobby BrownPoisonがビルボードの上位を占めていたころからisCGMを考えていたなんて、、、。脱帽です。

<残心>フェアプレイ
2021年のプロ野球日本シリーズは大熱戦でした。パ・リーグファンの私としてはいささか残念でしたが、セ・リーグの覇者ヤクルトスワローズの素晴らしい優勝で幕を下ろしました。シリーズ中、私の印象に残ったシーンが一つありました。第5戦の終盤、青木宣親選手にデッドボールの判定がなされましたが、青木選手自身がボールはバットのグリップエンドに当たったことを申告し、判定はファールボールに切り替わりました。その後、青木選手は凡打し、チームも2敗目を喫します。黙って1塁に出塁すれば良かったのにと思ったファンも居られるかもしれませんが、真実を捻じ曲げて勝利しても、自分の本当の達成感に繋がらないことを、世界で活躍してきた青木選手はご存知なのでしょう。そして、真実を捻じ曲げてその場だけ勝利しても、そのツケはいつか必ず自分に返ってきます。青木選手のようなフェアプレイの精神が、ヤクルトスワローズを真の日本一に導いたのでしょう。鹿児島大学出口尚寿先生、誠におめでとうございました。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム

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