糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第31話】
合併症と併存症

糖尿病は合併症の病気であるという格言があるほど、糖尿病診療における合併症の発症・進展の抑制は最も重要な目標の一つである。そのため、糖尿病の分野には“日本糖尿病合併症学会”という重要な学会がある。高血圧症合併症学会や脂質異常症合併症学会が存在しないように、ある単一疾患の合併症にフォーカスした学会は他にはない。そのくらい糖尿病にとって、合併症は重要かつ厄介な存在である。それもそのはず、そもそも高血糖はある一定の閾値に達するまでは無症状であり、どんなに血糖が高くても合併症が無ければ日常生活に困ることはないのだ。私は究極の選択として、HbA1cが高く、太っているけど合併症がない人と、血糖コントロールは良好で、痩せているけど合併症だらけの人とどちらが幸せか?というスライドを市民公開講座などでよく提示している。勿論、合併症がない元気な人の方がハッピーである。つまり極論を言うと、どんなに高血糖になっても合併症が一切出ない薬を開発しさえすれば、血糖値は糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群にならない程度にコントロールすることで糖尿病診療が十分成立することになる。

ザ・ブルースブラザーズ@第31話 合併症と併存症@糖キング 野見山崇

この点に配慮して作成された糖尿病治療ガイド2020-2021の糖尿病治療の目標では、糖尿病の合併症をあえて細小血管合併症(網膜症、腎症、神経症)に限定し、糖尿病の大血管障害とも呼ばれる疾患群は動脈硬化性疾患とされ、私が糖尿病の新三大合併症と呼んでいるサルコペニア/フレイル、認知症、悪性腫瘍は併存症とされている。すなわち、糖尿病の合併症とは糖尿病が必要条件として存在し、糖尿病で発症リスクが上昇したとしても、糖尿病がない人にも発症し得る疾患群は糖尿病の合併症とは呼べないという見解が示されたともいえる。

糖尿病治療の目標@第31話 合併症と併存症@糖キング 野見山崇

この合併症・併存症の定義は糖尿病の疾患軽視につながるのではないか?とか、合併症学会は合併症・併存症学会に名義変更が必要ではないか?といった難しい議論はさておき、私は“合併症”というものにフォーカスが当てられたことを非常に嬉しく思っている。以前の糖尿病治療の目標にも、新しいものにも血糖コントロールの上に合併症の発症進展の阻止が掲げられているにもかかわらず、合併症の研究は糖尿病業界で理不尽にも軽視されているのだ。日本糖尿病学会で最も栄誉のある賞の一つであるリリー賞は、45歳以下の若手研究者に贈られる賞であるが、受賞者の殆どが膵β細胞の研究を中心とした血糖降下のための研究業績で受賞しており、合併症の研究で受賞した研究者は非常に少ない。また、糖尿病学会に比べ、糖尿病合併症学会の年次学術集会は来場者数が極端に少ないのが現状である。私は酸化ストレス・血管障害・がんといった合併症の研究を中心に行ってきた一人として“血糖下げるだけではいかんのだ!”という気合を込めて“糖のながれのその先へ”というタイトルで最近講演を行っている。師匠の河盛隆造先生から薫陶を受けた我々は、糖のながれを制御し血糖を下げることの一歩先に行かなくてはならない。そしていつの日か、糖尿病学会より糖尿病合併症学会を大きくしたいという野望を、友人の神谷英紀先生(愛知医科大学)と共に達成したいと思っている。そんな自我の覚醒に酔いしれていたら、最近ある総説に出会った。私が米国留学中で参加できなかった河盛隆造先生の退官記念講演の記録である。そのタイトルが「“糖のながれ”の制御から“血管不全”制御へ」であった(順天堂医学.2008,54:P121-132)。私は愕然とした。私が妄想し、なんとカッコいいコンセプトだろうと自画自賛していた“糖のながれのその先”を河盛先生は13年前に既に考えておられたのだ、、、。
師匠に追いつけるのは、まだまだ先になりそうだ。

<残心>野見山外科
私の祖父野見山卯吉は外科医でした。九州帝国大学を卒業し、旧満鉄病院の外科の教授を務めていたそうです。戦後はシベリアに長い間抑留されながらも生還した強者で、帰国後は福岡市博多区千代町の自宅敷地内に小さな外科医院を開業していました。風邪の患者さんが来院しても“寝とけば治る!”と言って追い返し、崇福寺の小僧さんが虫垂炎なって手術した際は“坊主から金を取れるか!”といって無償で手術をしたそうです。当然祖母は大変苦労したらしく、私は幼いころ“崇ちゃんがお医者になったら患者さん(お客さん)いらっしゃいという風にせんといかんよ”と言われたものです(笑)。しかし、私が大好きだった野見山外科も大正12年に私の曽祖父が立てた家も、もう跡形もありません。祖父から絶対に手放してはいけないと言われていた床柱や、庭先に祀られたお稲荷さんもなくなってしまいました。悲しみを通り越して虚無感に襲われます。
今でも野見山外科を偲ぶことが出来るものが一つだけあります。崇福寺の参道、門をくぐって本堂まで石畳の歩道の両脇に、白い人の背丈ほどの四角柱の石柱が一対立っています。その石柱は野見山外科の門柱に使われていたもので、横穴の空いている部分に看板が掲げられていました。私はこれから先、福岡に帰るたびにこの2本の石柱に向かって“正しいものは何なのか?”と尾崎豊の“僕が僕であるために”を口ずさむのでしょう。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
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【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
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【第11話】新・糖尿病連携手帳
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【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~

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