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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第27話】
GLP-1の真の目的は何か

物事の真価や優劣、善悪は、真実が時の権力者によって捻じ曲げられ後世に伝えられるのが世の常である。現在放送中の大河ドラマ“麒麟がくる”は、織田信長を討った歴史上では大罪人の明智光秀の真の姿を映しだそうとしている。さらに、生活背景や疾患の増加減少によっても価値観が変化することが、サイエンスの世界ではよくある。第01話で紹介したインスリンは、発見当時ミラクルドラックであったが、最近では過度の慢性高インスリン血症が動脈硬化やがんを促進する可能性を危惧する見方もある。また、アドレナリンは低血糖時の心血管イベント発症に寄与する悪者の様に最近ではとらえられる面もあるが、早朝から狩りをしていた我々の祖先にとっては重要なホルモンであったに違いない。アドレナリンを大量に放出する褐色細胞腫を含む遺伝性疾患群(MEN2型など)が常染色体優性遺伝形式をとることは、それを裏付ける証拠の一つかもしれない。

Glucagon-like peptide-1 (GLP-1)は血糖値を下げるホルモンだと、糖尿病患者が多い現代社会に生きている人々は言うであろう。実際に、インスリンがない状態でもGLP-1とFibroblast growth factor 21 (FGF21)によって、血糖値が低下することを報告した論文もある(Diabetes. 2014;63:101-10)。その一方で、我々はGLP-1の血管保護作用や前立腺癌をはじめとしたがんの抑制作用を報告し、血糖降下作用を超えたBeyondな作用と呼んでいる(第08話)。しかし、どちらがBeyondなのであろうか。臨床応用された時間軸と患者数から、糖尿病治療薬が前立腺癌をBeyondな作用で抑制したとしているが、もし逆であったら前立腺癌の薬が、がん抑制作用を超えて血糖を下げると言われていたかもしれない。我々が福岡大学史上空前絶後のDiabetes誌にGLP-1の前立腺癌抑制作用を報告して以来、これを支持する論文が世界中で報告されている。GLP-1作用がエンザルタミド(Prostate. 2020;80:367-75)やドセタキセル(Eur J Pharmacol. 2020;878:173102)という前立腺癌治療薬の効果を増強することや、前立腺癌の放射線治療への反応を増強すること(Prostate. 2018;78:1125-33)、前立腺癌のPET検査におけるリガンドとして使えるのではないか(Anticancer Agents Med Chem. 2019;19:509-14)といった報告である。そして最近我々は、ある究極に研究結果にたどり着いた。内因性のGLP-1受容体の発現を持っていない前立腺癌細胞でも、GLP-1受容体を強制発現することで増殖抑制作用が得られ、ヒト前立腺癌では初期にはGLP-1受容体発現がみられるが、進行すると認められなくなることが分かったのだ(J Diabetes Investig. 2020 Mar 7. doi: 10.1111/jdi.13247.)。この報告は医療サイトでも取り上げられ、注目を集めた。特に興味深いのはヒトのデータである。

第27話 GLP-1の真の目的は何か@糖キング 野見山崇
第27話 GLP-1の真の目的は何か@糖キング 野見山崇

実は、正常の前立腺組織にはGLP-1受容体は発現していない。“がんにとって不利益な受容体をなぜ前立腺癌はがん化と共に発現するのか?”というご質問を、講演会でよく頂戴する。その時に私は冗談で“がんにも自制心があるのでは?”と答えていたが、今考えると我ながら名(迷)解答だったのかも知れない。米国でよくあるゾンビ映画を思い出して頂きたい。主人公の友人は“俺がゾンビになったら迷わず撃ってくれ”と主人公に必ずと言っていいほど告げる。そして、残念ながらゾンビになってしまうと“撃てと言っただろ~、早く撃て~”と始めのうちは言っているが、次第に理性が無くなり主人公に襲いかかるゾンビになってしまう。おそらくこの“撃て~”という友人の良心の叫びが前立腺癌におけるGLP-1受容体発現なのではないか。また、前立腺癌以外にもGLP-1受容体を発現し、GLP-1のがん抑制作用が我々やその他のグループから報告されている(Expert Rev Endocrinol Metab. 2016;11:357-64)。友人が最後の良心の叫びをしているがん細胞が他にも多くいるのかもしれない。

第27話 GLP-1の真の目的は何か@糖キング 野見山崇

一方、新型コロナウイルスが猛威を振るい、糖尿病患者で重症化することが危惧されているが、感染症は悪性新生物(がん)に次ぐ糖尿病患者第2位の死因である。そして、感染症とGLP-1についても興味深い報告がある。重症感染症で多臓器不全を引き起こす原因となっている内毒素(エンドトキシン)の一種であるリポ多糖(LPS)を投与することによって小腸L細胞からのGLP-1の分泌が上昇することが報告されている(Cell Rep. 2017;21:1160-8)。この時出されたGLP-1の目的は、間違いなく血糖を下げることではない。ではなぜ、がんや重症感染症といった生命の危機的状態でGLP-1作用が要求されるのか。私の答えは、GLP-1の真の目的は、生命を危機的状況からのレスキューすることだからではないかと個人的に考えている。最初に製剤化されたGLP-1受容体作動薬エキセナチドもアメリカドクトカゲを飢餓という危機的状態から救うことが本来の目的であった。

最後に付け加えておきたいことが2点あります。まず、糖尿病患者では新型コロナウイルスが重症しやすいのではなくて、血糖コントロールが悪い糖尿病患者が重症化しやすいということです。そして次に、第27話は完全なる筆者の妄想劇場であり、臨床的にがんや重症感染症を抑制する目的でGLP-1受容体作動薬を投与することは間違ったことであると理解して頂きたいと思います。100年後、糖キングは織田信長、明智光秀、豊臣秀吉、徳川家康のどの立ち位置にいるのでしょうか。楽しみです。

<残心>御先祖様
剣道家の端くれである私は歴史好きです。また、祖父母の影響を受け神社仏閣が好きで、旅をした時には周囲のお寺や神社にお参りをし、歴史的建造物の維持に多少なりとも貢献をするようにしています。以前、大河ドラマで真田丸が放映されていたころ、妻と義理の母と一緒に上田に行きました。歴史を感じる美しい街並みと、温泉を満喫して散歩をしていると安楽寺というお寺があり、いつものように拝観させて頂きました。すると一枚の大きな屏風絵があり、それは大坂夏の陣図屏風絵の複製でした。そして、よくよく見てみると居ました。野見山家のご先祖様です。祖母から、野見山家の先祖は黒田家に仕えた武士であったと聞いていましたが、年寄りの戯言と当時の私は聞き流していました。しかし、大坂夏の陣に我が家の家紋である“違い山形”の旗を持った武将が参戦しています。

第27話 GLP-1の真の目的は何か@糖キング 野見山崇

本当に私の先祖かどうか定かではありませんが、祖母に心の中で深謝しました。ご先祖様は黒田家の家臣だったので、当然勝者の徳川家康側に就いていました。私よりもずっと世渡りが上手だったみたいです。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版

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