医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
おそらく、2015年下関の糖尿病学会総会(JDS)だったと記憶している。ポスターセッションでの発表が終わった私は、南江堂の方から声をかけられた。“ガイドライン等にとらわれない糖尿病治療薬の本を書きませんか?”と。当然そんな偉そうなことが出来る立場ではないし、締め切り日までに総説を書くのも一苦労であり、大げさに著書にすると後々何を言われるか分からないのでお断りした。“SGLT2阻害薬に関する議論がどうなるか分からないので、今はちょっと”と、お茶を濁す形にしてその場を逃れたのだ。当時は、SGLT2阻害薬は怖い・やばい糖尿病薬だと悪のレッテルを貼られ、営業妨害的な講演会の規制や恐ろしいRecommendationが出ており、我々も臨床研究を始めるにあたっては厳つい先生方に沢山のお叱りを受けていた。しかし、いくつかの大規模臨床試験がON GOINGであるとの情報を仕入れていた私は“これらの結果を待って”ということにして、その場を切り抜けた。その後、EMPA-REG OUTCOMEⓇ(N Engl J Med. 2015;373(22):2117-28)が素晴らしい結果を出し、SGLT2阻害薬は一躍悪者から救世主へと形質転換した。そして迎えた翌年のJDSで、再び南江堂の方から声かけられた。“そろそろどうでしょう?”と。覚えてらっしゃったんですね、、、。
まず、目次の表題決めから始まった。この時気づいたのが、自分がいかに偏った講演・執筆をしてきたかということだった。動脈硬化、がん、それから、、、テーマが全く浮かばない。無い知恵を絞りだして9章の項目を何とかピックアップしたが、重複が多いとかチャート式の治療計画が立てられないとの南江堂からのご指摘を受け、2部構成としてもらうことで体裁を整えた。ちなみに最初の目次構成は下記の様だった。
『チャートでわかる 糖尿病治療薬処方のトリセツ(仮)』
~未来を護るベストチョイス!~
企画案
【著者(敬称略)】
野見山 崇(福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科 准教授)
【目次】
1章 スタンダードなT2DM治療ストラテジー
2章 食後高血糖を狙い打て!
3章 高齢者糖尿病の人生設計
4章 とにかく私は痩せたいの~肥満2型糖尿病の対策~
5章 糖毒性を解除せよ!
6章 そろそろ腎機能が悪化してきた!どうしよう?
7章 多彩な糖尿病合併症から考える治療法
8章 その他の問題点から
9章 残心
最終版と見比べて頂きたい。
非専門の先生方やメディカルスタッフの皆さんにも分かりやすくということで、可能な限り平易な表現で、楽しく読んでいただくことに注意を払った。表題の“トリセツ”という表現は私ではなく南江堂の方にネーミングして頂いた。若い方はご存知かも知れないが、西野カナ*1さんの歌にある表現で取扱説明書のことらしい。
トリセツという言葉に馴染みある若い先生方にも楽しく読んでもらえるよう、各章の表題をキャッチ―なものにした。かつての糖尿病学をはじめとした医学書は、重厚なタイトルを付けられるケースが多かったが、うんこ漢字ドリル*2が大流行する現代社会に合わせ、手に取りやすい、馴染みやすい、笑いながら学べる一冊にしたかったからだ。
なかでも私自身が気に入っているのは、第2章食後高血糖を狙い打て!や第5章糖毒性を解除せよ!といったミッションを与えるかのようなタイトルだ。ガッチャマン*3をはじめとしたヒーロー戦隊もののアニメで育った世代の私は、思わず“ラジャー!”と返事をしてしまう。また、分かりやすい図や漫画を可能な限り組み込んだ。講演会で使用しているスライドの図を頻用するとともに、糖キングで公開されている図もいくつか使用している(p77 SGLT2阻害薬の作用機序など)。字面ではなく絵で見てイメージがわく様にした。一遍一遍もコンパクトにまとめ、10分程度の休憩時間中や電車の中で気軽に読めるようにも心掛けた。
実は表紙は3パターンあった。医局員に好みを聞いてみたが、意見が全く分かれてしまい結局南江堂の方に一任した。全て野見山が書くという条件だったので、約6か月間の執筆中何度も心が折れそうになり、止めてしまいたいと思った。また、超理系の私の稚拙な日本語が真っ赤に修正されて戻ってくるので、更なるダメージを受ける。しかし、出来上がると嬉しいものだ。お陰様で好評により、発売2週間程度で増刷が決まり、多くの先生から“よくこれだけ書けたね!”とお褒めのお言葉頂く。妻も喜んでくれた。普段ほとんど家にいない私からのささやかな恩返しが形にできた気がする。
当然のことながら、非難も受けるだろう。最近Amazonにも酷評が書いてあった。“生活習慣の改善が第一で、治療はインスリンとスルホニル(SU)尿素薬が安全で血糖が良く下がる” と。誤解して頂きたくないのは、生活習慣の改善が重要であることは大前提で、それを踏まえたうえでの「処方のトリセツ」である。また、インスリンが要らないのではなく可能な限り少量にしたいという趣旨だ。しかし、酷評をお書き頂いた先生にもご購入有難うございましたと御礼を申し上げたい。
私は講演や執筆の際、今の自分が考えていることを正直に包み隠さず全てぶつける様にしている。野球で表現すると今自分が持っている最速の直球をど真ん中に投げ込むようにしているのだ。例えそれが打ち返されても、そこから学ぶものは生じるはずだ。しかし、当たり障りのないことを言ってごまかし、駆け引きをして丸く治めても時間の無駄で、そこからは何も生まれない。本気でぶつかり合うから化学反応が起きて新しい何かが生まれ、サイエンスが進歩する。これからもど真ん中の直球を投げ続けるので、多くの先生方に打ち返して頂きたい。その次の回にはさらに速いど真ん中の直球を投げ返します。
<残心>空飛ぶオフィス
忙しいのによく本が書けたね、いつ書いたの?と、よく聞かれます。私は基本的に自宅では仕事をしません。妻をFootball Widowにさせたくないからです。基本的に今回のトリセツは空飛ぶオフィス、飛行機の中で書きました。講演や学会に行く移動中、飛行機中は最高のオフィスです。ベルト着用サインが消えると、CAさんが軽食やコーヒーなどを運んでくれます。病院内のPHSも鳴らないですし、携帯もメールも通じません。完全にデスクワークに集中できる時間が福岡―東京区間でしたら約1.5時間与えられます。インターネットがつながらないので、論文は引用できませんが、そこには(Ref)とメモを残し、後にPubMedが開ける環境で論文をはめ込むようにしました。ご協力いただいたANA(全日空)の皆様にも感謝します。1冊書き上げるのに、どれだけ搭乗しているかを考えると、どれだけ飛び回っているかがお分りでしょう。支えてくれている妻には感謝し、機内で出た焼き菓子は必ず持ち帰るようにしています(笑)。最近ANAの飛行機にはSTAR WARS JETというのがあり、大興奮で乗りました。何と空席にヨーダ*4が座っています。ANAの飛行機がFORCEで護られていることが分かりました。FORCE will be with you!
[ 注 ]:文中の名称及び画像に関する権利は以下に属します。
*1 西野カナ SME Records inc. All rights reserved.
*2 うんこかん字ドリル Copyright Bunkyosha Co., Ltd. All Rights Reserved.
*3 科学忍者隊ガッチャマン © TATSUNOKO PRODUCTION
*4 ヨーダ ( StarWars ) TM & © Lucasfilm Ltd. All Right Reserved.
Copyright © ANA
Copyright © STAR ALLIANCE
*権利所有者の方へ:表示上問題がある場合はお手数となり大変恐縮ですが以下までメールにてお問い合わせ願います。
問合せ先メールアドレス:ques@futata-cl.jp
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
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