医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
Advocacy(アドボカシー)とは聞きなれない英単語であろう。直訳すると擁護とか支援という日本語に言い換えられるらしい。日本ではあまり馴染みがないアドボカシーであるが、海外では糖尿病診療・研究と並んで重要視される取り組みであり、米国糖尿病学会のホームページにも“Advocacy”という大項目があるくらいだ。日本の糖尿病診療はアドボカシー活動が遅れているというご指摘を受け、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は合同でアドボカシー活動を推進すべく、新聞広告を出し、委員会を立ち上げた。
しかし、海外でアドボカシー活動が進んでいるからと言って、海外の活動をそのままわが国に持ち込むことは不可能だ。なぜなら医療体型が全く異なるからだ。誰もが知る通り、日本の患者さん達は国民皆保険制度という素晴らしいシステムによって医療を受ける権利が守られているが、海外ではそうではない国が大多数だ。よって、糖尿病診療を受ける上で最も大きな弊害は金銭面であり、海外のアドボカシー活動の中心は金銭的支援(ドネーション)である。さらに、海外の糖尿病患者さんが医療費で苦しむ理由が医薬品のコストにある。わが国では当局が“適正な”価格を提示し、製薬メーカーと折り合いをつけて薬価を決めているが、米国ではPBM(Pharmacy Benefit Manager)という組織が中心なって、患者の立場を度外視した薬価の設定を行っているため、日本ではありえない価格になっているものもある。代表的なインスリンの薬価をわが国と比べてみると下記のようになる。
日本の患者さんが医療費の面でいかに治療を受けやすい環境にあるかが分かって頂ける。 では、わが国における糖尿病アドボカシー活動は何に重きを置くべきか。そのためにはStigma(スティグマ)というもう一つの言葉を理解しなくてはならない。スティグマとは直訳すると烙印という言葉で言い換えられる。糖尿病という烙印とは何であろうか。簡単に表現すると、糖尿病=失明、下肢切断、透析、心筋梗塞、脳梗塞、癌、認知症になると“決めつけられる”見方をされる。また、糖尿病=不摂生、だらしない、暴飲暴食、運動嫌い、自己管理能力なしと決めつけられ、出世できない、保険に入れない、ローンが組めないという社会的ハンディキャップを負ってしまう。そこで新聞広告の“偏見にNo!”という文言が登場する。スティグマを払拭し、患者さんが胸を張って受診して、糖尿病であることを職場にも公言できる環境を作ることが日本の糖尿病アドボカシー活動の中心であると考えられる。そして、いまだに約4分の1残っている未治療の糖尿病患者をゼロにする必要がある。
そもそも糖尿病であることが恥ずかしいとか悪いという考えが間違っている。もちろん、過食や運動不足は糖尿病発症の引き金になっているが、病態の中心である膵β細胞の脆弱性は生まれ持った“体質”である。視力が低下しやすい“体質”で眼鏡をかけている人を偏見の目で見る人がいるであろうか。むしろ今、眼鏡は立派なオシャレアイテムである。数年前から老眼が厳しくなり、外来でも老眼鏡をかけるようになった私は、患者さんから「眼鏡かけると頭よさそうに見えますね」とお褒め頂いた(笑)。海外では、精神科や心理カウンセラーに通院している人は、自分で心のケアをしているインテリジェンスが高い人と思われるらしい。では、糖尿病で通院している人は自分の生活習慣や体調を管理しているインテリジェンスの高い人と捉えられるべきではないか。わが国の糖尿病アドボカシー活動は始まったばかりである。
アドボカシー活動に対するアンケートにご協力お願い申し上げます。
アンケートについて
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<残心>海里村上
壱岐に海里村上という宿があります。私が順天堂から福岡大学に赴任する際、出身地の千葉を離れる妻の慰労のため、妻が一番行きたいと思った宿(海里村上)に連れて行ったのを切っ掛けに訪れるようになった、お気に入りの温泉宿です。料理が素晴らしく、義理の両親をお連れした時も大満足でした。今回、福岡大学を離れ国際医療福祉大学市川病院に移る節目として、もしかしたら最後になるかも知れないと妻と行ってきました。窓から見える海の景色は、10年前と一切変わりません。でも私は福岡大学で過ごした10年間で大きく変わりました。年を取り、少しの物を得るために多くのものを失って来たような気がします。あの時、10年後のこんな気持ちでこの風景を見つめることになるとは夢にも思いませんでした。福岡大学での日々が走馬灯のように駆け巡ります。しかし、前に進まなくてはなりません。頭の中で銀河鉄道999のテーマが鳴り響いています。糖キング第2章、新たな旅路の幕開けです。
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
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