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糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第42話】
2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム

遂に出た!糖尿病治療薬に優劣や順序を付けることを頑なに拒んでいた日本糖尿病学会が、2型糖尿病薬物療法のアルゴリズム、すなわち投薬の推薦順序を示したのだ(糖尿病65(8):419-434、2022)。今までは、あくまでも“病態に応じて”としか言ってこなかった学会が、はっきりとクラス別に治療薬の順列を付けたことは、歴史的一歩と言える。図1に示すように、インスリンの絶対的・相対的適応患者には当然インスリン治療が推奨されている。肥満2型糖尿病が増えてきた現在でも、インスリン分泌が極度に低下したインスリン依存状態の2型糖尿病患者も存在する。糖尿病治療薬の発達と共に、強化インスリン療法が必要な2型糖尿病患者は少なくなっては来たが、糖のながれに則ったインスリン療法が基本中の基本であることを忘れてはならない。そしてここで重要なのは、初診でも適応があればインスリン導入を外来で行うべきだということだ。初診でインスリンを外来導入したら、在宅自己注射管理料を算定できないという理不尽な保険制度を国は見直してほしい。インスリン療法が必須でないとされた場合は、熊本宣言2013や高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を鑑み、目標HbA1cを設定する。そしてStep1、ファーストチョイスの投薬に非肥満か肥満かを考慮するよう書かれている。実はこれ、世界に類を見ない治療選択の流れである。ADA(American Diabetes Association)のアルゴリズムでも、動脈硬化性疾患や慢性腎臓病、心不全によって治療薬の選択をすることは推奨されているが、肥満と非肥満で治療選択を変える学会の公式アルゴリズムを、少なくとも私は見たことがない。今回のコンセンサスステートメントの序文において、糖尿病の病態、エビデンス、処方実態を勘案し作成された旨が書かれている。日本人2型糖尿病の病態が多様性に富んでいる点が重んじられたのであろう。また、処方実態が考慮された点は非常に興味深く、日本糖尿病学会の奥ゆかしさが感じられる。他国の多くのアルゴリズムは、自称賢者の学会側が押し付けるかのごとく治療方針を打ち出す形で提示され、それに逆らうと保険診療が適応されない国もある。DPP-4阻害薬が多く処方されているわが国において、DPP-4阻害薬が非肥満2型糖尿病の第一選択に君臨している。これを日和見的だと非難する先生も居られるかもしれないが、私は違うと思う。よく使われているもの、よく売れている物にはそれなりの理由があるはずだ。ビートルズが売れ出しの頃“不良の音楽”と言われていたが、今ではクラッシック音楽と同等の扱いを受けている。DPP-4阻害薬が日本人に適した薬剤だから多くの先生方に使用されていると言える。一方で、肥満2型糖尿病患者の第一選択薬は欧米と同じビグアナイド薬(メトホルミン)であり、次にSGLT2阻害薬が続いている。アルゴリズム作成に関わっておられたB先生が、記載されている薬剤の順番が推奨される順番ですとWeb講演会で仰っていたので、非肥満2型糖尿病はDPP-4阻害薬→ビグアナイド薬、肥満2型糖尿病はビグアナイド薬→SGLT2阻害薬→GLP-1受容体作動薬と展開していくのが定石だと記してあることになる。誰もが納得の配列ではないか。そしてSGLT2阻害薬が第一選択になっていない点が私個人的に合点している。SGLT2阻害薬は経口血糖降下薬ではあるが“糖尿病治療薬”ではないからだ。

2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズムStep1@糖キング第42話 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム 野見山崇
チャートでわかる糖尿病治療薬処方のトリセツ2ページより@糖キング第42話 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム 野見山崇

素晴らしいアルゴリズムを考えられたなーと感銘すると共に、ある事実に気が付いた。これは私のトリセツそっくりだ~~~!!!第20話でも取り上げた私の著書にファーストチョイス in Japanと題して図2のような独自のフローチャートを示している。糖尿病学会はBMI 25kg/m2で、私はBMI 30kg/m2で病態を分けている点以外は、インスリンの適応患者を除外し、肥満はメトホルミン、非肥満はDPP-4阻害薬から始める点まで酷似している。しかし私は“俺の方が先だ!”とか“糖尿病学会にパクられた!”などという大人げない事を言うつもりはない。私の考えが正しかったことを裏付けしてくれたアルゴリズムに感謝している。この、非肥満はDPP-4阻害薬から、肥満はメトホルミンからという私流のフローチャートは、DPP-4阻害薬の臨床研究(Diabetes Res Clin Pract, 2012;95:e27-28)を報告したころから講演会で発表していた。正しいことを意見して、それが世間一般に認められるまでに約10年かかるらしい。
Step1でイメグリミンが最後尾に付けているのは、推奨されていないのではなく発売間もないのでエビデンスが十分にないという意味であろう。最近の基礎研究を中心に、膵β細胞においてイメグリミンはブドウ糖応答性のインスリン分泌能の改善とβ細胞量の保持という二つの機序を有することが分かってきた(J Diabetes Investig. 2022 Dec 1. Doi: 10.1111/jdi.13951.)。今後の研究成果の蓄積で、イメグリミンの立ち位置がどう変わってくるのかが興味深い。また、Step3のAdditional Benefitsが記載されていることも革新的である。現在は慢性腎臓病、心不全、心血管疾患のみが取り上げられているが、将来的にがんも加わり、我々の研究成果がその一助になる事を期待する。日本糖尿病学の大きな一歩を踏み出したアルゴリズムが今後さらに発展し、日本独自の進化を遂げることを期待する。

<残心>海外組
サッカーワールドカップ2022では、日本代表の選手たちが躍動しました。目標のベスト8入りは果たせませんでしたが、戦いぶりは今までの日本代表とまるで違い、強豪国に全く引けを取りませんでした。静岡県出身の選手が多く出場していたこともあり、今回のワールドカップは応援に熱が入りました。TV中継の中で“海外組の活躍”という言葉を多く耳にしました。海外組とは、現在国外のチームで活動している選手たちの事ですが、なぜ海外組がワールドカップの大舞台で活躍できるのでしょうか。技術が高いから、外国人選手とのマッチプレイに慣れているから。それもあるでしょうが、言葉も常識も通じない、知り合いも少ない海外で生活し、結果を出せるための“タフなハート”が一番の要因だと思います。留学すればだれでも論文が出せると思っている人がいますが、それは大きな間違いです。見ず知らずの外国で、まず生活をセットアップし、日本語も日本の常識や礼儀作法も知らないラボのメンバーとコミュニケーションを取りながら実験をするのは至難の業です。しかし、そんな環境でも結果を出せることで、強い海外組になることが出来るのです。最近、若手医師たちの研究離れや留学離れが言われています。サッカー日本代表を見習い留学し、ビックな論文を書いて屈強な海外組になって帰国し、日本の糖尿病学を発展させてほしいと、元海外組の一人として切に思っています。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト

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