医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール
もう第2版が発表された(糖尿病 66(10):715-733, 2023)。2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム第1版(第42話)が発表されてから、わずか1年である。我々が糖尿病連携手帳第3版を2016年に改訂してから4年後の2020年に第4版を改訂した時、“もう改訂の時期か、、、もう少し時間が欲しいなあ”と思ったものだ。筆者は全く変わらず、第1版発表から1年後に第2版を出されたということは、委員の先生方は休む間もなくずっとこのことを考えられていたのであろう。頭が下がる。
しかし、大きく改訂されたというのではなく、いくつか付記されたという感じである。まずアルゴリズムのStep 1において、肥満(インスリン抵抗性)の評価としてBMIに加えて内臓脂肪蓄積を表す腹囲とインスリン抵抗性の指標である計算式HOMA-IRが追記された。腹囲の基準はメタボリック・シンドロームの診断基準である内臓脂肪面積100cm2に相当する。この男性85cm、女性90cmというわが国のメタボの診断基準は未だに議論になるが、私は現行の基準が適切であると考える。男性で、特に中年以降の体重増加が顕著な人は明らかにリスクが高い。HOMA-IRは最近あまり話題にならないが、個人的には簡便で評価しやすいインスリン抵抗性の指標と考えている。また、詳細な検討を希望される場合にはMatsudaインデックス(Diabetes Care 1999;22:1462-70)も良い指標と言える。インスリン抵抗性の評価に比して、インスリン分泌不全については糖尿病治療ガイドを参照というあっさりした形でしか書かれていない。やはり日本人2型糖尿病はインスリン分泌不全が病態の中心であり、明らかにインスリン抵抗性が認められる人は右側で、それ以外は基本的に全員左側の薬剤選択をということを暗に推奨しているのかもしれない。チルゼパチドが肥満2型糖尿病の薬剤に新たに加わった。治験の段階でBMI ≧ 23kg/m2の2型糖尿病のみが対象であったため、非肥満の治療薬には入っていないが、私の実臨床の経験では“肥満の人は痩せるが、非肥満の人は過度に体重減少しない”という印象がある。今後さらなる検討が待たれる。
残念ながら、イメグリミンのポジションが上がっていなかった。第23話で紹介して以来、主に国内を中心とした研究結果が続々と報告され、岩手医科大学の石垣泰先生のグループからisCGMを用いた素晴らしい報告もあったが(Diabetes Ther 2022;13:1635-43)、処方制限の影響もあってか未だ非肥満の最下位である。しかし、2023年12月20日に処方制限も解除された。今後さらなる研究の発展と立ち位置の向上に期待する。少なくともSU薬よりは上位に来るべきインスリン分泌促進薬と私は個人的に考える。
安全性の表に特徴的な副作用が加わっているのが目を引く。例えばDPP-4阻害薬の水疱性類天疱瘡や間質性肺炎、メトホルミン(ビグアナイド薬)の乳酸アシドシースなど、糖尿病専門医の試験に出て来そうな副作用が列記されている。この中で、GLP-1受容体作動薬やチルゼパチドに膵炎、胆石、胆嚢胆管炎とある。確かにGLP-1受容体作動薬でこれらの発症が増えるとの報告があり、注意は必要ではあるが、昨今のダイエット目的にGLP-1を自費購入して使用している人に対して“GLP-1を使用すると胆石になりますよ!”的な理不尽な脅しの報道は止めて欲しい。適正に処方され、真面目に内服もしくは自己注射をしている2型糖尿病のある人が怖がってしまう。私は実臨床でGLP-1受容体作動薬やチルゼパチドを数多く使用しているが、この類の重篤な副作用は一度も見たことがない。一方、この表の最下段にある効果の持続性とは何であろう??一回の内服による薬効の持続性、つまり半減期的なものなのか、あるいはSU薬二次無効のような継続使用で効果が無くなるという意味なのか、、、謎である。アルゴリズム作成に携わった順天堂大学医学部附属浦安病院の佐藤博亮先生に三島までお越し頂いてご講演を頂いたが、うっかりこの部分を質問するのを忘れてしまった。次回伺いたいと思う。
Step 3には挙げられえていないが、非アルコール性脂肪肝炎(NAFLD)にも文章で言及されている点が嬉しい。最近ではMAFLD(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease)と呼ばれているらしいが、糖尿病との合併は肝臓がんの重大なリスクになる。 最近、この点に関して消化器内科の先生方とディアスカッションすることがよくあるが、MAFLDは治療の決め手がないらしい。糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が、診療科の垣根を超えて併存疾患を改善してくれることを願う。詳しくは我々の著書(第46話)に久留米大学の川口巧先生がご執筆してくださっているので、ご参照頂きたい。
たった1年でこれだけ変わるとは、まさに糖尿病診療は激動の時代を迎えている。いつまでもHbA1cのみに固執していては取り残される。2024年もまた新たに第3版が出るかもしれない。合併症や併存疾患の研究をしてきた私は、Step 3が縦にも横にも充実していくことを切に願っている。そうすれば、Additional Benefitsを得られる薬剤を、適正に使用できる糖尿病のある人はラッキーな存在になる。それが本当の意味でのアドボカシー活動に繋がると考える。
<残心>Vaundy
Vaundyさんのライブに行ってきました!ライブなんてストラトヴァリウスのEPISODEツアーに行って以来なので20年以上ぶりです。妻からVaundyさんの曲を教えてもらい、歌唱力の素晴らしさにファンになりました。そして今回、CDを購入して発売記念ライブに二人で行ってきました。50歳過ぎた我々は23歳の若手アーティストのライブに行くと浮いてしまうのではないか(?)と思っていましたが、意外に幅広い年齢層の観客でした。友人、夫婦、恋人、家族連れ、中にはお孫さんとノリノリで観ているお爺ちゃんまで居られました。しかもその日、ミュージックステーションの中継がありました!!Vaundyさんの凄さは歌唱力のみならず、多彩な楽曲にあります。ロック系、ラップ系かと思いきや山下達郎節のポップス系など、まさに変幻自在です。また、PVもセルフプロデュースする天才ぶりです。これからも大注目して聴きたいと思います。でも、もうライブは結構きついかもしれません。1時間以上立ちっぱなしは老体には厳しかったです(笑)Vaundyさんの曲の中で私が一番好きなのは“怪獣の花唄”です。この曲を聴くと三好先生を思い出します。天国で一緒にカラオケする日のために、今から練習したいと思います。
【残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)
【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬
【第52話】Dear ケレンディア
【第53話】高齢ダイアベティスの極意~キョウイクとキョウヨウ~
【第54話】尿アルブミンは心血管の鏡
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