糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール

糖キング 糖の流れに魅せられた男が語る(Talking)糖尿病のお話。 二田哲博クリニック 糖尿病専門医・指導医 野見山崇

【第43話】
降圧薬のBeyond

糖尿病治療薬のBeyondな作用が注目を集めている昨今であるが、降圧薬にもBeyond Blood Pressure Controlな作用があることが知られている。実は、降圧薬のBeyondは糖尿病治療薬よりも以前から研究されており、治療選択にも重大な影響を与えている。糖尿病治療ガイドにおける糖尿病合併高血圧の治療計画では、治療開始血圧が130/80mmHg以上と記されており、微量アルブミン尿または蛋白尿がある場合には、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)もしくはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)といったRAS系阻害薬が推奨されている。これはRAS系阻害薬が糖尿病性腎症の発症進展の抑制を中心とした、糖尿病性血管病変を抑制する血管保護作用を有するからに他ならない(Prog. Med. 25:2542-2549, 2005)。タナトリルⓇというACEIは1型糖尿病性腎症の、ニューロタンⓇというARBは2型糖尿病性腎症の保険適応を既に取得している。SGLT2阻害薬がCKDの保険適応を取得したとかしないとかで大騒ぎをする10年以上前の話である。糖尿病診療に関わる先生方が糖尿病患者の降圧薬としてRAS系阻害薬を適宜有効に使用した甲斐あって、わが国での糖尿病性腎症による透析導入は頭打ちになっている。今後SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬の影響が現れると、糖尿病性腎症による透析患者は激減する可能性がある。糖尿病性腎症の研究が“不要”になるという夢のような時代まであと一歩である。

糖尿病性腎症による透析導入は頭打ちになっている@糖キング第43話 降圧薬のBeyond 野見山崇

RAS系阻害薬は、腎症の抑制のみならず大血管合併症も抑制している。順天堂大学医学部代謝内分泌内科学の医局長池田富貴先生は、ARBのバルサルタンがマクロファージの血管壁への接着を抑制し、血管壁の肥厚を抑制することを、高血圧モデルラットを用いて実証した(Endocr J. 54:605-612, 2007)。さらに、私がケンタッキー大学留学中に隣のラボで研究していたHong Lu先生は、レニン拮抗薬であるアリスキレンが動脈硬化抑制作用を有することを見出し報告している(J Clin Invest. 118:984-993, 2008)。Lu先生の所属していたAlan Daughertyラボは、アンジオテンシン負荷による腹部大動脈瘤の研究が盛んなラボであるが、そこから動脈硬化抑制の研究結果が報告されているのは注目に値する。やはり、レニン・アンジオテンシン系は血管にとって宿敵のようだ。我々も糖尿病患者をACEの遺伝子多型とアンジオテンシン受容体の下流で酸化ストレスを産生するp22phoxという酵素の遺伝子多型の組み合わせが、ミトコンドリアDNA体細胞重変異の蓄積や、頸動脈肥厚と相関することを見出している(Ann NY Acad Sci 2004;45:1577-83)。また、私の友人の一人である札幌医科大学 古橋眞人教授は、RAS系阻害薬が脂肪細胞のサイズを縮小しインスリン抵抗性を改善することを見出し報告している(J Hypertens. 22:1977-1982, 2004)。さらに、順天堂大学 綿田裕孝教授のグループはARBに膵β細胞保護作用があることを報告している(Biochem Biophys Res Commun. 344:1224-1233, 2006)。RAS系は血管合併症のみならず、糖尿病の根本的な病態にも関与している可能性がある。

RAS系阻害薬のインスリン抵抗性改善・臓器保護作用@糖キング第43話 降圧薬のBeyond 野見山崇

RAS系阻害薬のBeyondな作用が十分理解できたところであるが、その進化系とも言える降圧薬が最近出現した。アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)と呼ばれるサクビトリルバルサルタン(エンレストⓇ)である。ARBのバルサルタンとネプリライシン阻害薬が接合した形をしている本剤は、ARBの作用に加えてナトリウム利尿ペプチドであるANPやBNPの分解を抑制することでデュアルに作用する。元々心不全の適応を取得していたが、最近高血圧にも適応拡大になり、これが糖尿病患者の降圧薬として非常にフィットする。何とこの降圧薬、血糖が低下するのだ(Lancet Diabetes Endocrinol. 5:333-340, 2017)。そしてそのメカニズムとして、GLP-1が関与している可能性が示唆されている。GLP-1がDPP-4によって不活性化されることはあまりにも有名だが、ネプリライシンもGLP-1を基質としており、一部分解している。ARNIがネプリライシンを阻害することにより、インタクトなGLP-1血中濃度が上昇し、血糖が低下されている可能性がある。私も数十例の処方経験があるが、HbA1cが約0.2%程度低下するのを度々経験しており、インクレチン関連薬との併用例に多いような気がする。糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬が血圧を下げるように、降圧薬のARNIが血糖値を下げるとは、Beyondの共演と言える。糖尿病治療薬のBeyondも熱いが、ARNIを中心とした降圧薬のBeyondにも目が離せない。

DPP-4、ネプリライシンによるGLP-1の切断部位@糖キング第43話 降圧薬のBeyond 野見山崇

<残心>サイエンスを修めるということ
大学や病院の主要ポストを取得するにあたり、研究業績が重視されます。時として、4倍もの業績の差がひっくり返るという奇妙なこともありますが、多くのまともな大学や病院では、臨床経験や専門医に加えて研究業績が上位の人が教授や科長、部長というポストに就くのが定石です。そして、それらのポストに就いた人が、学会や協会の主要な役割を担うことになります。私も教授というポストを頂き、様々な役割を担った会議に参加させて頂く様になりましたが、サイエンスを修め、しっかりとした論文業績をお持ちの先生のご意見は、クリアカットで理路整然としていることに感銘を受けます。一見別物と思われる研究と組織のマネジメントですが、理に適った運用をする必要があるという点で共通した背景があるのでしょう。それは私たちが若い頃に経験した受験勉強にも似ています。10代のころ必死で勉強した微分積分や代数幾何などの公式は、医師になってから使用することはありません。しかし、その時身に付いた理論的思考と、答えが出るまで努力する根性は、今でも身についています。サイエンスを修めるということは、理論的思考をバックボーンに答えを出すよう努力出来る人になるということかもしれない。
第43話を執筆するにあたり、15年以上前に書いた自分の総説を読み直しました(Prog. Med. 25:2542-2549, 2005)。素晴らしく良く書けていて感動しました。あれから私はどれだけのサイエンスを修めることが出来たのでしょうか。あの頃の自分に恥じない教授になりたいと襟を正しました。













残心(ざんしん)】日本の武道および芸道において用いられる言葉。残身や残芯と書くこともある。文字通り解釈すると、心が途切れないという意味。意識すること、とくに技を終えた後、力を緩めたりくつろいでいながらも注意を払っている状態を示す。また技と同時に終わって忘れてしまうのではなく、余韻を残すといった日本の美学や禅と関連する概念でもある。(Wikipediaより一部抜粋・転載)






【第01話】多くの人生を変えたミラクルドラック・インスリン
【第02話】HbA1cの呪縛
【第03話】糖尿病と癌
【第04話】糖毒性という名のお化け
【第05話】医者らしい服装とは?
【第06話】食後高血糖のTSUNAMI
【第07話】DMエコノミクス
【第08話】インクレチンは本当にBeyondな薬か?
【第09話】守破離(しゅ・は・り)
【第10話】EMPA-REG OUTCOMEは糖尿病診療の世界を変えるか?
【第11話】新・糖尿病連携手帳
【第12話】過小評価されている抗糖尿病薬・GLP-1受容体作動薬
【第13話】ADAレポート2016
【第14話】メトホルミン伝説
【第15話】Weekly製剤を考える
【第16話】糖と脂の微妙な関係
【第17話】チアゾリジン誘導体の再考~善とするか「悪とす」か~
【第18話】糖尿病患者さんの死因アンケート調査から考える
【第19話】Class EffectかDrug Effectか
【第20話】糖尿病治療薬処方のトリセツ執筆秘話
【第21話】大規模臨床試験の影の仕事人
【第22話】低血糖の背景に、、、
【第23話】ミトコンドリア・ルネッサンス
【第24話】血管平滑筋細胞の奥深さ
【第25話】運動療法温故知新
【第26話】糖尿病アドボカシー
【第27話】GLP-1の真の目的は何か
【第28話】糖尿病連携手帳 第4版
【第29話】残存リスクを打つべし!
【第30話】糖尿病という病名は変更するべきか
【第31話】合併症と併存症
【第32話】メディカルスタッフ
【第33話】新・自己管理ノート
【第34話】グルカゴン点鼻薬とスナッキング肥満
【第35話】SGLT2阻害薬 For what?
【第36話】血糖値と血糖変動のアキュラシー
【第37話】経口GLP-1受容体作動薬
【第38話】コロナ禍をチャンスにする糖尿病診療
【第39話】HbA1cはウソをつく、こともある
【第40話】糖尿病治療ガイド2022-2023:私のポイント
【第41話】順天堂大学医学部附属静岡病院
【第42話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム
【第43話】降圧薬のBeyond
【第44話】糖尿病治療はデュアルの時代
【第45話】兄貴に捧げるラストソング
【第46話】血糖だけにこだわらない!糖尿病治療薬の考え方・使い方
【第47話】糖尿病は治るのか?
【第48話】2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
【第49話】医師の働き方改革
【第50話】GLP-1受容体作動薬のセレクト
【第51話】肥満症の治療薬

*文章、画像等を無断で使用することを固く禁じます。

医療人として | 糖尿病の治療について | 糖尿病についてのコラム | プロフィール

糖尿病専門医・指導医 野見山崇 | 糖尿病についてのコラム

関連した記事

[糖尿病]合併症がおきないようにしっかりと治療していけば、決して怖い病気ではありません。[甲状腺]めずらしい病気ではありません。しかし、発見しにくい病気です。[姪浜]海も近く、緑の多い。福岡中心部に近い人気の住宅地。市営地下鉄 姪浜(めいのはま)の駅のすぐそばにあります。[天神]福岡・天神北、「紳士服のフタタ」本社ビル7階。仕事と生活と文化の中心地にあります。カラダみがきプロジェクト

ご予約/お問い合わせご質問や不安なことがあればおたずねください。

092-883-1188姪浜(代表)

診察日の9:00~13:00 15:00~17:30

ques@futata-cl.jpお返事に時間を頂いてます。

携帯電話からメールでお問い合わせいただく場合のご注意。

二田哲博クリニック 姪浜 ホーム

理事長あいさつ
理念
特色
専門医と指導医について
資格について
カラダみがきプロジェクト
紹介リーフレットダウンロード
YouTubeチャンネル
糖尿病
甲状腺の病気
内科
セカンドオピニオン
姪浜
天神
ドクター
スタッフ
初めて受診される方
再診いただく方
お問い合わせ
よく患者さんから
ご質問いただくこと
知りたいことから探す
「逆引きインデックス」
臨時休診
お知らせ
採用情報(専用サイト)
リンク
ポリシー
アクセス
診療受付時間
サイトマップ

先頭へ